家心

住宅は「暮らしを容れる器」だと思います。
器は、サイズや質感だけで選ぶものではなく、自分のライフスタイルにマッチ
しているかどうかも大切なポイントです。使い勝手やデザインも気になるとこ
ろ。使っているうちに段々と手に馴染んできて愛着が湧いてきたりもするもの
です。
家づくりにおいて、器以上に大切なのは、その器に容れる暮らしそのもの。
僕らが家づくりをコーディネートする際には、その家に住まう人がどんな暮ら
しを実現したいと願っているのかを、一番大切に考えます。それを想像し、そ
んな暮らしによく似合う器を考えるのです。それはたぶん、暮らすほどに味わ
いの生まれる家たちです。
僕らは、建主さんと共に、そこにどんな暮らしを容れるのか、どんな登場人物
が居て、どんな物語が生まれるのか。その一連の場面を家という限られた形に
描き込んでいきます。ある意味、限られた空間を無限大に使う〝自由な発想〟
こそが家づくりには求められているのだと思います。
さて、あなたはどんな暮らしを、どんな器に容れますか?

これまでに400棟を超える建築家住宅をつくってきた僕らは、いろんなタイプ
の家づくりの経験をしてきましたので、ある意味『家道楽』とも言えるでしょ
う。そんな僕らの経験から学んだことを、ここにまとめておきたいと思います。

◎リアリティを感じることしか人は選択しない。
いくら、経験豊かな僕らが力説したところで、家づくりに興味のない方の心
に僕らの言葉は響きません。人は、リアリティを感じることしか選択しないも
のです。
ですから、建築家との家づくりが万人の方に適しているとは限らないことを
知っておかねばなりません。よくあるのが、奥様は建築家に設計を依頼して世
界に一つのオリジナリティあふれる我が家を建てたいと願っているのに、ご主
人は建売住宅でいいやと思っているケース。このようなケースの場合は、うま
く建築家住宅にフィットするとは限らないので、それでも奥様が建築家住宅を
建てたいという場合は、事前に家族の意見や進め方を調整しておく必要があり
ます。
また、居住性を優先するかデザインを優先するかという選択肢も、人はリア
リティを感じる方に心が傾く傾向にありますから、家族で意見が分かれる場合
は、意見調整が必要になってきます。
リアリティとは、価値感と連動した真実味です。「ピンとくる!」「これは
自分にぴったり!」と直感的に感じるものです。
実はこのリアリティの調整の仕方こそが厄介なのです。家族それぞれで実に
多様性に富んでいるからです。家族個々のリアリティを満足の行く形で調整し
ていく家づくり。そんなリアルライフデザインを僕らはコーディネートしてい
ます。それには、下記の『3つのデザイン/または3つの〝いい〟』を丁寧に
バランスよく調整して行く必要があります。

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「心地いい」とは心理的な満足度のことで、デザインで解決できることが多く、
まさに建築家の力が求められる要素です。
「気持ちいい」とは生理的な満足のことで、体が感じる「暑い・寒い・ジメジ
メする」といった体感に基づくもので、デザインにプラスして、素材や設備、
システムなどで解決できることが多い要素です。
「質がいい」とは質的満足度のことで、構造や仕上がり、耐久年数、素材のグ
レードなどに関連する物的品質ですが、これはそれを提供する工務店の施工ス
キルや職人連携、素材や機器の品質を高めることで実現できることが多い要素
です。
さて、あなたが建主ならば、どこに重点を置きますか?
当然ながらコレだと思うことを、あなたのパートナーと確認しあってくださ
い。〝当然〟や〝当たり前〟も人それぞれ。その家族によほど大きなリアリテ
ィ(家族が抱えている大きなテーマ)がない以上、完全に一致することは少な
いはずです。
この「3つの〝いい〟」から自分たちの暮らしを実現するのに最適な〝いい〟
を自ら選んでいく家づくりを、僕らはユーザー参加型家づくりと呼んでいます。
つまり家づくりのプロセスにどしどし関わっていく家づくりですが、それを実
現する最適な手法がインクルーシブデザインの考え方。このインクルーシブデ
ザインはワークショップなどを行ってユーザー(住まい手)の本音(インサイ
ト)を共に発見し、共にその解決策を見いだそうというデザイン活動です。ユ
ニバーサルデザインと似ていると言われますが、デザインアプローチの方法が
より個人によりそっていて、さらに、問題を深く考えているように思います。
このインクルーシブデザインを世界的に牽引している一人がジュリア・カセ
ムさんですが、僕は彼女が代表を務めるインクルーシブデザイン研究所にアド
バイザーとして参加しています。またこの研究所のメンバーである九州大学の
平井康之准教授とも連携しているので、常にインクルーシブデザイン的なデザ
イン活動に触れていて、弊社の家づくりにもその手法を取り入れているのです。
ですから、必要に応じてワークショップを行うこともありますが、日々の家
づくりの進め方も、建主さんが自分のリアルな意見を出しやすいように素早く
話のたたき台を出したり、そのたたき台そのものをプラン化したモデルプラン
(フォレストバーン)を何プランも既に用意しています。つまりとてもシンプ
ルな形でインクルーシブ的に建主さんに本音を吐露していただけるようにファ
シリテートし、リアルライフデザインを実現しているのです。
家づくりのプロセスに参加することそのものが「家づくりの楽しみ」です。
ハウスメーカーなどとの家づくりでは形だけのこの部分を思う存分堪能できる
のが、建築家と工務店を仲間にした家づくり。ただし、場合によってはこのプ
ロセスが苦痛になることがあるので、要注意です。大切なのは、自分たちがど
のレベルで〝デザインされた家〟を建てたいと願っているのかという〝自分を
知る〟ということ。そのためにもワークショップなどは重要なポイントになり
ます。

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理想的なキッチンの開発を試みたワークショップ。
九州大学サテライトスタジオにて開催しました。

◎もったいない家づくり。『◯◯だけ住宅』の時代は終わりました。
理想的な家づくりの方法を追求する中でいつも思うのですが、残念ながら、デ
ザインに対する意識のあまり高くない人がまだ日本人の多数派であるというこ
とです。ただし、それでも徐々に気運は変化してきていて、自分たちが建築家
が設計する家に住むなんてことにあまりリアリティを感じていなかった方の中
に「デザインで解決できることがあるような期待感」を抱かれた方々もご相談
に来られることが増えています。
これは嬉しい兆候です。
前述したように、家づくりに参加して自分の思いを具現化することができる
のです。どこにでもあるようなハウスメーカーの家やデザイン性に乏しい没個
性的な家を建てるなんて、もったいない話です。
もっと自分の希望を反映した家づくりがあってもいいのです。
建築家に設計を依頼したからといって、予算が〝雲の上にある〟ということ
はありません。大手ハウスメーカーと同等か、場合によってはコストダウンで
きる場合もあります。
選択肢は豊富にあるのです。ハウスメーカーだけ、工務店だけではありませ
んし建築家だけでもないのです。自己実現が成されてこそ、満足度は高まるの
です。僕らが行った建主調査でも、「自分の意見が反映された住宅」ほど高い
満足度が出ていました。設計や施工を専門家だけに任せるのも〝もったいない〟
と僕は考えています。絵心のある人はスケッチを描いて設計に参加していいし、
コピー表現のうまい人は言葉で伝えてもいいのです。また、施工においても、
面白い素材やコストダウンできそうな素材があれば建主から提案するのもいい
のです。中には自分で床の塗装をする人もいれば、壁の左官仕上げを仲間を呼
んで行うのも大歓迎です。実は僕もマイ篭手を持っていて、時々建主さん宅の
壁塗をお手伝いしています。もちろん〝ヘタウマ〟です。しかしこれが面白い
んです。味わいが生まれるんですね。
これまでにも建主が基本図面の作成に参加されたケースが幾つかありました。
大手のゼネコンに務めているが住宅の設計経験は乏しいという方や、デザイナ
ーなのでCGで空間のアイデアを出したいという方、まだ学生だけど図面を描き
たいと建主の娘さんが参加したケースもありました。そういう場合でも、そん
な条件に対応してくれる建築家を選定して構造や設備といった安心安全な視点
での提案をしっかりと行いながら、役割分担を行った家づくりをコーディネー
トしています。建築家は本質的には自己完結型の人が多いので、自分の設計に
初心者のような人が加わることには否定的ですが、そんなユーザー参加型家づ
くりに協力的な建築家も(数少ないのが現実ですが)いるのです。
また家づくりは家族の価値感をチェックしてこれから家族がどんなライフス
タイルを実現していきたいのかを確認するいい機会でもあります。そのグッド
チャンスを第三者だけに任せるなんて、実にもったいないことだと思いません
か!

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建主が基本プランづくりに参加した事例です。
その後バトンタッチされたのは工務店の設計士。しかしこの設計士は元々は建
築アトリエ勤務。1/1の仕事がしたくて(自分で施工図を描いて自分で施工し
たい!)工務店に在籍しているその設計士は建主の思いを見事にくみ取りまし
た。

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まずは、ワークショップを行って基本コンセプトを発見。その後、
建主の娘さんが基本設計を担当。建築家が構造や動線の見直しを行った後に実
施図面を仕上げて工事へと進んだ事例です。平屋なのに6メートルの天井高が
あって、数カ所にライトコートのような空間があります。

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建主が基本プランを描き、構造的な検証を建築士が行い、実施図面をアップ。
建具や詳細図は建主が描いたというコラボ設計です。
満足度は、このご家族の笑顔が物語っています。

<次回からのテーマ>
◎モノづくりとしての家づくり
◎予算がなくても本物を使う
◎無責任で表層的な情報を〝買う〟必要はありません。
◎リアルは変化する
◎切れ味のいいザワザワとしたデザインは少ない
◎理想の最大公約数としてのモデルプラン化
◎職人がつくる一点もの
◎子ども室はどこに行くのか
◎暮らし方をデザインする
◎価格のリアル だから詰め方が大切
◎日本型パッシブ住宅を考えるいいチャンス。
◎日本型の断熱気密
◎薪ストーブか全熱交換型換気扇か。
◎屋上緑化は山づくり。
◎『フォレストバーン』という考え方。
◎僕が使うエコ素材
◎大切なのは基礎知識と想像力。
◎建主と住まい手と設計者の理想の関係
◎工務店は施工スキルで選ぶ。
◎理想は、日本食のような家。

※このコーナーの記事は随時、加筆修正して行きます。