デザインはどこから来るのか?

◎4月5日(日)

 建主となる方に充分なヒアリングを行った後に、第一回目のプレゼンテーシ
ョンを行います。今日は、新たな建主であるT様へのプレゼンテーションの日
でした。
 T様とは、随分古いお付き合いで、T様が勤め先の家づくりイベントに僕が講
師となったのが縁で、それからは新しい家が建つたびにちょくちょく見学に来
ていただいていたのでした。土地探しの候補地も、自分たちの暮らし方に対す
る模索から、集中した時期があり、お休みした時期もあり、巡り巡って、奥様
の実家の近くに理想的な住宅地を探し当てた末に、具体的なご相談をいただい
たのです。
 この日、提案してくれたのは建築家の小林さんと片岡さんのユニット。
まずは、敷地の持つ条件やポテンシャルについて、詳しい説明から話はスタ
ートしました。

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 既に周囲の家が完成しているので、それらの建物と現地との関係性を図示し、
お隣の窓からの現地の見え方や、それらの建物が敷地に対してどんな計画で建
てられているのかを詳しく説明してくれます。
 こんなときに必ずといって良いほど気づくのが、一般的なハウスメーカーの
家が、敷地に対する住宅の可能性を伸びやかにとらえて提案されたものではな
いという事実です。プラン集の枠の中から飛び出すことを禁じられた画一的な
プランはどれも、その敷地でのリアルな生活ではなく、〝玄関は道に向かって
在るもの〟とか〝リビングは南面に向かって開くもの〟という一般的な概念に
従って建っていることがほとんどなのです。
 そんな事実の紹介も行いながら、次は、建主であるT様が、ここでどんな暮
らしをするのかといった想像上の提案を行っていきます。それの根拠となるの
が、入念なヒアリングを行った上でまとめたコンセプトシート。

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 T家の家族それぞれの平日から休日にかけての動きを網羅した上で、それに
応えた空間づくりへと繋がるための〝暮らし方のまとめ〟のようなものを小林
さんたちは話していきます。そして
「じぁ、プランを見たいですか?」と小林さん。建主に家づくりへの参加を促
すいつものセリフを投げかけます。小林さんはインクルーシブデザインのワー
クショップにも参加している建築家で、ユーザー(使い手/住宅の場合は住ま
い手)の思いを拾い上げることに積極的な建築家の一人です。
「見たいです」とT様。ご主人も奥様もはにかんだような笑顔で応えました。

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 提案されたのは、こんなかわいい模型です。もちろん図面も!
 なんと1/200の大きさ。小さい! これじぁ空間を理解できないだろう!と
指摘する人もいるでしょうが、そんなこと関係なしに、この手のひらに乗るス
ケール感がなんともユニークです。
 僕はこのプレゼンテーションに立ち会いながら、『デザインはどこから来る
のか?』ということを考えていました。というのも、提案されたこのプランが、
T様の要望を見事に反映していて、その上で敷地の条件も見事にクリアしてい
たからです。これまでに何百回もこのような場面に立ち会った僕は、そのデザ
インの根拠がよく理解できないというようなプランも見てきました。そしてそ
んなプランたちを後から総括的に振り返ってみると、どうも時代のトレンドの
ようなものがそのプランたちの根拠になっていたような気がすることがあった
のです。しかしそんなプランやアイデアたちは、大概はデザインそのものに新
しさやインパクトがあり、建主の目を輝かせたのも事実です。
 デザイン能力やプレゼンテーション能力の高い人が描いたプランは、圧倒的
な魅力を放つことが多く、そのデザインそのものの持つマジックのような魅力
に目を奪われがちですが、ここには要注意ポイントがあります。
 そのデザインがどこから来ているかということです。
 それは建主が実際にはどんな住まい手となる素質を持っていて、実際にその
場所でならば、どんな暮らしをするのが理想なのかを深くリアルに想像してい
るかどうかということです。その住まい手の暮らしを内包するデザイン。デザ
イナーが持つべき視点はその一点に尽きると思います。
 この決して華美でもなく、スタイリッシュでもトレンディでもなく、どちら
かと言えばベーシックな要素の上に立った、T様の暮らしの動線を丁寧に描き
込んだシンプルなデザインを見ながら、僕はそんなことを考えていました。
 住まい手の望む暮らし方を知るそのプロセスの中にこそデザイナーの活躍す
る領域があります。ユーザー参加型のインクルーシブデザインでは、ユーザー
の気づきやアイデアをユーザー自らが発掘するためのワークショップなどを行
いますが、僕らの家づくりでは、普段からこんな手法を意識して、敢えて極端
な例え話を出してみたり、真反対の意見があることを伝えたり、叩き台となる
〝下手な絵〟をクイック&ダーティ(素早く雑に!)で僕が描いてみたりする
ことでユーザーの思いが誘発されるようにコーディネート(&ファシリテート)
しています。
 住まい手の暮らしから立ち上がってくるデザイン。それが一番自然だと思い
ます。その自然の中に自分や家族を置いてみることで、暮らしの向かう先が決
まるのではないでしょうか。デザインの重要な役割がそこにあります。

2015-04-15 | Posted in 365day's galleryNo Comments » 
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