282歳の家。

◎3月14日(土)

 この家が建ったのは今から約10年前に遡った日のことでした。
 ご家族の皆さまとの出会いはその一年前のことになります。或るテレビ番組
にほんの数秒だけ僕が出演していて、それを妹さんのミチコさんがたまたま見
かけたのです。
 そしてその翌日、その頃虎ノ門にあった東京ギャラリーにお越しいただいた
のが家づくりのはじまりです。今もぼんやりとその日のことが思い出されます。
確かその日も姉妹揃って、ギャラリーのスチール製のドアをノックされたので
した。あれから一昔が経っての今回の住まい訪問。お互いに歳をとりましたし、
あの頃だって〝よいお歳〟でしたので、心の片隅で〝大丈夫かなあ〟とすこし
は思っていたのです。
 鶯の泣くホームに降りて、歩くこと数分。ここは東京の下町です。ミチコさ
んによれば海抜一メートルもないんだとか。津波のときには上野のお山に逃げ
るようにみんなで話し合ってるのよ、とミチコさんとフミコさん。シンクロす
るように笑顔でおっしゃる姉妹です。東京の下町っ子は、たぶんこんな風に覚
悟ができてるんですね。で、見上げれば、こんなモダンな佇まいです。

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 この建物に妹夫婦と姉、兄の四人暮らし。合計年齢282歳の住まいです。
モダンだから住みにくいとか、そんな想像は余計なお世話といわんばかりに
鉄骨造3階建ての明るく開放的な空間を自分流にアレンジしてお住まいです。

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 シンプルな白い空間に重厚なサイドカウンター。使い込まれた電化製品や写
真立て、調度品が静かに自分の居場所を確保しています。床から天井まである
開口部からは十分な光が射し込んでいます。入り口も引き戸になっていて、そ
の建具が床から天井まである造り。そこで伸びやかな暮らしが営まれることは
想像に苦しくありません。

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 ただし、暮らしていると不便な箇所も見えてくるもの。このポリカーボネー
トを挟み込んだ白い建具は、開け閉めの際にガタガタという音が気になるのだ
とか。引き戸の配置も実用性から考えれば〝イマイチ〟だったそうで、今では
引き戸を一枚入れ替えて使っているのだそうです。
「やはり家は二年くらいかけて設計しないと駄目だねえ」とミチコさんの夫の
キヨナガさん。
「でも床暖は良かったわ。風がなくて暖かいのは最高よ」とミチコさんとフミ
コさん。良いところも悪いところも含めて、このモダンな空間に愛着が生まれ
ていらっしゃるご様子です。

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 この階段吹抜けがこの建物の温熱システムの要です。冬は床暖の暖気が階上
に上がり、夏は3階のエアコンの冷気が階下に降りていきます。側面がガラス
張りになっているのでそこから自然光が入り、室内に適度な明るさを届けても
いるのです。

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 2階に設けられた在来工法による浴室については「寒くないですか?」とい
う僕の質問に「いいえ、ちっとも」と口を揃えたお三方。暖気が通過していく
途中に設けた浴室には、そんな効果が期待できるのかもしれません。

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 実はこのお家、隣地に本家があって、その建物と1階で繋がっています。そ
の繋ぎ方をどうしようかというところから家づくりのご相談がスタートしたの
を思い出しました。
 お話をうかがって同じ写真に僕も入らせていただいたこのリビングは、本家
の空間。いつもはここで四人でくつろいでいらっしゃるのだそうです。
 階段室には〝いずれ〟ということでエレベーターを設置するための最小限の
空間が設けられていますが、当分それを設置する必要はまったくないご様子。
それでも兄弟揃っては自分たちの〝エンディング〟についての打合せをされる
ことは多いようで、葬儀や相続などの面倒なことはどうするのか既に決めてい
らっしゃるのだとか。
「うちはねえ、冠婚葬祭はシンプルにするの。母のときもそうだったわ」
「そうそう、すぐに話がまとまっちゃうの」
「そして意外にすんなり実行しちゃうのよ」
 僕に語りかける姉妹は「人生ってそんなものよ」と言わんばかりです。

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 家の外に出ると〝地域ネコ〟が。
 最初の頃は12、13匹いたのが今では2匹になったそうで「去勢手術さえしと
けば自然に減るのよね。下町だから野良猫が一匹もいないと寂しいじゃない」
とフミコさん。
 すると、「野良猫じゃなくて地域ネコだよ」とキヨナガさん。
「ネコも歳にはかなわないのよ。可愛がっていても死んでいくんだから」
 お三方の話は尽きることなく続くのでした。

 再び鶯の鳴き声を聞きながら、電車を乗り継いで浅草へ。
 ここではサポート工務店さんと久しぶりの軽い飲み会。おいしいおでんをい
ただきながら、家づくり談義に花が咲きました。
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 下町。
 282歳の家。
 住まい手の思いをその家づくりに参加させることの大切さを学んだ家旅でした。
 キヨナガさんがおっしゃったセリフにこんなものがありました。
「自分が豊かでないと、豊かな生活は提案できないじゃないかなあ」
 その通りだと思います。使い手の求める暮らしの姿を提案するためには、その
暮らしを自分も理解しておく必要があるのです。しかしすべての暮らしを実際に
体験できるわけではありません。だからこそ、暮らしを想像する力が要るのでは
ないでしょうか。そんなデザインアプローチを僕はリアルライフデザインと呼ん
でいます。

◎3月15日(日)

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 都内にて、軽井沢で建つフォレストバーンFLATの施工契約を行いました。
軽井沢は屋根勾配や軒の出に関する規制が多いので、寄せ棟になっています。
信州から工務店のスタッフがやってきてくれたので、契約後、設計をした建築
家と4人で食事をしました。
 僕は282歳の家の話をし、工務店のスタッフは軽井沢が夏期期間中は工事がで
きないという話をし、建築家は最近手がけたという住宅の話をしました。

2015-03-18 | Posted in 365day's gallery, 旅に向かうNo Comments » 
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